インタビュー

INTERVIEW 07

福江元太さん悠情さん

アイリッシュ音楽の演奏家であるギタリストの福江元太さんとフィドラー(バイオリニスト)の悠情さん。福江さんのファンであるアイアール営業の那谷が、おふたりに「はたらくとは?」というインタビューを試みた。アーティストの世界ならではの苦労やどんな仕事にも共通する要素が見えてくる。

ハードロックな生き方しよう!

ミュージシャン、アーティストと呼ばれる人たちに「はたらく」とか「労働」という言葉はなんとなく似合わないような気もします。どんな思いで仕事をしているのですか?

元太
例えばライブなら、聴いてくださるお客さんはもちろん、一緒にやっている演者、スタッフさんたちも含めて、「良き一日だった」と思えることを目指しています。
ベストな状態で臨むためには、「自分」というものを無くするんです。ステージに上ったときに、あまり「自分」がありすぎると、人の目線が気になったり、極度に緊張してしまう。そのために開演1時間前に始まるルーティンワークがあります。

チームで仕事をすることが多いと思いますが、人と一緒にいて気疲れすることはないですか?

元太
まず、トイレの「大」に入っての体操からスタート、体をほぐして自分の状態を知ります。変顔とかもしてるので、他人には見せられません(笑)
それから軽く食事をし、胸のところにあるスイッチ(イメージです!)を「暖機運転モード」にして、アイドリングを始めます。車がエンジンかけていきなり走らないように、僕も少しずつ気持ちを温めていくんです。本番10分前には「本番モードスイッチ」をONにする。あとは5分前に客席との距離感を測って、その日に合わせて調整します。
僕は本当にプレッシャーに弱くて、いろいろやってみたんですけど、これが一番いいと思ったので、もう何年も続けています。
終演後、会場を出てお客さんがいない空間で、このスイッチはブチッと切ります。ライブの後って、興奮したり失敗しちゃったことを思い返したりして眠れないこともある。失敗は、次にどうするかまで含めてノートに書き留めておいて、家には持ち帰らないようにします。スイッチをOFFにすることもすごく大事です。

具体的には何をするのですか?

悠情
お互い気を遣わないのが一番ですよね。でないと一緒にいられない。ツアーに行くと何日も同じステージに立って、一緒に寝泊まりして、ストレスを溜めてしまうこともありますが、ステージ以外では、それぞれ別の人間で、別々のことをするものだと割り切るほうがいい。自然に一人ひとりの時間が持てるように。相手に合わせて気を遣いすぎるのが良くないと思うんです。

元太
自分にやりたいことがあるのと同様、相手にもやりたいことがあるわけだから、それを汲み取って、自分のやりたいことと照らし合わせていく。同じ人とのライブでもそれは毎回変化するので、どれだけ汲み取れるかで変わってきます。

悠情
誰かと一緒に演奏するっていうのは、自分の持っていないものを得られるチャンスでもあるし、自分の糧にもなります。別の二つのものが出会って融合して、また新しいものが生まれるって素敵ですよね。それは音楽だけじゃなく、ほかのことでも同じだと思います。プライベートでもね。
相手を否定してしまっては何も始まりません。まず相手を肯定するところから始まります。無意識のうちに何か生まれて気づかないんだけど、後で「あのときすごかったな」と突然思い出すこともあるんです。お互いがトコトン離れちゃうこともあるけど、そこは大人の対応で修正していけばいい。

自分で一生懸命練習してきても、人と合わせるのは難しいと思います。どうやって乗り越えるんですか?

悠情
お互いにいろいろなことを聞き合って、見合っています。場合によってはお客さんの雰囲気も見ながら「もう一回長く」とか、相手の弾き方に微妙にそれが表れて「あ、いくな」と感じる。理論的なことも感覚的なこともいろいろ含めて、集中して相手を受け入れるとわかってくる。お互いのテンションがグォーッと上がってくる瞬間とか。

元太
これが3人、4人のセッションになるとまた全然雰囲気も変わってきますが、同じように相手のやりたいことを感じ取って汲み取って、3人で4人で「さあ何ができるか」に意識を置いています。会話していく感じに似てますね。
ただ自分が演奏しているときに客観的にはなれないので、ひとりプロデューサーというか、外側から見ていてくれる人がいるといいな、と思うこともあります。

ぼくらの仕事でいうと、施工管理技士ってまさにそんなプロデューサーの役目かもしれませんね。職人さんたちの力を客観的な立ち位置からうまく引き出して、一人ひとりにはできないものを完成させていく感じですね。
一人未熟な人がいると、なかなか同じテンションになれないということはありますか?

悠情
例えば昨夜のライブでは、僕たち二人に、若いフルート奏者が加わってくれた。彼女は若くて経験も浅いけれど、そこを否定したらその先はないから、見守って教えてあげて、一緒にやるうちにだんだん身に着いてくる。やはり経験して失敗もして、成長するんじゃないかな。どのくらいの経験が必要かはその人のセンスにもよりますけれど。

元太
本当にやってみないとわからないですね。僕も若いころは先輩についていくのがやっとでした。緊張して怒られるし。でも終わって飲みに連れて行ってもらったりして、いろんなことを話しているうちにだんだんわかってきたというか…そういうの嬉しかったです。

教えてくれる人って大切ですね。

悠情
「教えてくれる」というより「感じさせてくれる」人かな。実際、細かく教えてもらったことはないです。昔の職人みたいな感じ。
もともと元太君と出会ったのは、彼と一緒に演奏していた功刀さんというフィドラーを通じてなんですが、それから3人で演奏するようにもなって、僕は功刀さんのことをすごく尊敬していたので、最初は僕の方から歩み寄って歩み寄って毎回勉強でした。そのうちにだんだん分かってくる。
お酒を通じて学ぶことも多いですね(笑)。酒飲みのコミュニケーションって大きいですよ。そこでは演奏の話は一切しないんですが、話の節々に音楽家としてのスタンスや生き方が見える。「ハードロックな生き方してるなあ、この人」とかね。

この仕事をやっていて辛いことはありますか?

元太
毎回のプレッシャーはつらいですね。でもそれは仕方ない。不安もいっぱいです。ひとりでやってるんで、とにかく人と繋がって、どんどん先を見ていかないと収入につながっていかないので、いつもプレッシャーとの闘いです。

悠情
僕は本質的にはツライことはないです。
でも食っていかなければならないので、どんだけお客さんの方を向いて頑張っても収入に繋がらないことがあって、やっぱり営業しなければならない。それで自分のやりたい演奏が二の次になっている場合は辛いです。
とはいえ、それも仕事。そこで新しい人と出会って交わって、次の演奏にも繋がることがあるからやっていけてると思います。
ぼくはバイオリンを持っていられれば幸せなんです。
親父は中卒で工場で働いて、音楽と関係のあるような家じゃなかったんだけど、ぼくは3歳でバイオリンを始めてずっとやらせてもらってきました。
フレンチのシェフとして、フランスまで勉強に行ったときもずっとバイオリンを持ち歩き、そこでアイリッシュ音楽に出会ったんです。そして転向。だから今は幸せですよ。

将来の夢、目標は?

元太
いま、具体的にソロギターのアルバムも作ろうとしています。今年10月にアメリカ東海岸で二人のアメリカ人のアイリッシュ演奏家とツアーをするんですが、そのときに現地レーベルに直接売り込みたいと思っています。

悠情
僕は老後の心配がなくなることかな?(笑)。一生バイオリンは弾ける、弾き続けることが夢です。いまは5月のライブを成功させることが一番の目標。12人のプロミュージシャンを集めて繋げてプロデュースします。本当にみんないいやつで、そこからまた新しいことが始まる。これスバラシイです!

お二人にとって「はたらく」とは、何でしょうか。

元太
この、胸のスイッチを入れること(笑)
お客さん、聴いてくださる方がいないと成り立たない商売なので、人生賭けて音楽やって、そこに人が集まってくださる。その「場」「音」をつくることかなと思います。

悠情
これはショービジネスでありサービス業だから、大きい小さい関係なく、エンターテイメントを創りださなきゃいけないと思います。
あと「楽しく」やるんじゃなくて「面白く」やっていると仕事につながるんです。ビミョーな違いなんだけど、サラリーマンのときに上司に言われたんです。「どう、仕事楽しい?」って聞かれて「はい」って言ったら「じゃあ給料いらんね。仕事は楽しくやってちゃダメ、面白くやらなきゃ!」と。面白い方が何かに繋がりますよ!

ありがとうございました!

左から元太さん、那谷、悠情さん。最高のプレミアムフライデーでした!

◆福江元太 Genta Fukue
岡山を拠点とし、月の半分以上はライブ活動で各地を回る。名古屋でも毎月ライブを開催(アイリッシュパブ「シャムロック」など)、今秋には米東海岸ツアーも予定。
鍼灸の勉強をしていた大学生のとき、ひょんなことからアイリッシュギターに出会い、そのままこの世界に進んだ。人見知りでコミュニケーションが大の苦手だった彼にとって、音楽は唯一自分を表現できる世界だった。ソロギタースタイルでも活動しており、米レーベルからソロアルバムを出すのが目下の一番の目標。
オフィシャルウェブサイト

◆悠情 You Joe, the Fiddler  
名古屋を拠点にアイリッシュから北欧、ジプシー音楽などを手掛け活躍するフィドラー(民族音楽系のバイオリンを「フィドル」と呼ぶ)。
幼少よりバイオリンを習うが、大学では英米文学を専攻し、サラリーマン営業、フランス料理のシェフを経て演奏家になったという妙歴の持ち主。バイオリンを持っていればとにかく一番幸せ。自らプロデュースする「フィドラーズフェス」を毎年名古屋で開催するほか、多彩なアーティストをつないで世界を広げている。
オフィシャルウェブサイト

インタビュー後、なんとお二人が公園で生演奏してくださいました

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