インタビュー

INTERVIEW 12

KEN THE 390さん

ヒップホップアーティスト。
学生時代から活発にライブを続けアルバムもリリースするなど活躍してきたが、バリバリの会社員経験も持つ。
アイアールで新しい仕事に挑戦しようという人たちへのメッセージを、当社営業の倉本と人事の加藤が聞いた。

人の真似じゃない自分オリジナルの強み

ラップとの出会いについて教えてください。なぜラップの世界にハマったのですか?

中学・高校とバンドを組んでいて、ベースを弾いていました。あるときヒップホップをやってみようということになりました。学生バンドの世界ではコピーが当たり前ですが、ラップの世界では人のものを歌うのはカッコ悪いこととされていて、「自分で歌詞を書いてみなよ」と言われました。それをインストゥルメンタルに乗せて歌っていくんです。
いま思えばメッチャ下手くそな歌ですよ。でもつたないなりに、自分のオリジナル歌が2日程度でできちゃった。それまで何年も音楽をやってきてオリジナルなんてほとんどなかったのに!それがすごく新鮮で嬉しくて、楽器を止め、どんどんのめり込んでいきました。

当時はどんな歌を歌っていたのですか?

「おれらはすげーよ!他とはちがうんだよ!」みたいな、自分のことを大きく見せることを「ボースティング」っていうんですけど、そんな歌が多かったですね。ただプロになった今でこそ、メッセージを伝えることも大切にしていますが、ラップではメッセージ性が問われるというより、うまく韻を踏んで面白く話すことがまずは大事なんです。
「あなたの言いたいことは何ですか?」といきなり言われても難しいですが、「あなたの名前は何ですか?」と言われたら、「KEN」だから「PEN」みたいな韻を踏む言葉を連想ゲームみたいに重ねていくだけで音ができ上がっていくんです。

簡単そうにおっしゃいますが、言葉のセンスは必要ではないですか?

ヒップホップって言葉を知らないとできないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。ただ語彙は多くなくても、話は上手いほうがいい。ストーリー立てて話せるとか、言葉数は少ないけれど的を得ているとか、適切な文章が書けるとか、です。
ちょっとアウトローなイメージがありますが、それは僕らが知らない世界のことをたくさん経験している人たちが、語ってくれるからそう感じるんだと思います。その人の話し方が面白ければ、より中身がスーッと入ってきます。

大卒でリクルートに入社、それを辞めてプロのアーティストに転向されました。

学生の時からずっとラップをやってきて、音楽を続けていきたいとは思っていたのですが、大学を卒業するときにはまだ、それだけでは生きていけなかった。どうせはたらかなきゃいけないから、バイトするくらいなら正社員になろうと思い就職しました。中でも、若いうちに仕事を任せてもらえて、社会で通用するスキル・能力が身に着きそうなリクルートを選んだんです。

リクルートさんって結構忙しい会社ですよね。

すごく!忙しかったですよ。毎日会社を出るのが夜10時くらい。それからご飯食べて夜中12時くらいから、3時に寝るまでラップをやっていました。週末はライブ。でも、それが仕事に支障が出るほど忙しくなってきたため、両立は無理という結論に至り、音楽のほうを選びました。

会社を辞めて何か変わりましたか?

辞めた直後は気が緩んでしまいましたね(笑)
会社員のころは、仕事を終えると、疲れてはいても「よーしやるぞ!」とウキウキしながら帰り、夜中の3時間に「ここしかない!」っていう集中力で取り組んでいました。だから確実に毎日3時間やるために飲み会にも行かないし、テレビも見なかった。
ところが、全ての時間を音楽に使えるようになると、朝遅く起きて、テレビを見たり友達と遊んだり、1日3時間もやらない日も続きました。やはりメリハリがあったほうが物事には集中できます。

趣味でやっていたころと、プロになって一番大変だったのはどんなことですか?

メジャーレーベルと契約して、仕事が大きくなってくると関わる人の数も増えてきます。コマーシャル的な要素も増えて、自分が表現したいこと異なる意見を盛り込んでいかなくてはいけないことが出てきます。正直ストレスに感じることもありました。

スランプに陥るようなこともありますか?そういうときはどうやって克服するのですか?

曲がうまく書けなくて落ち込むことはありますね。頭ではいいイメージができているのに、書けない。
そういうとき、僕はひたすら書き続けます。いったん離れて気分転換をしたほうがいい、という人もいますが、いったん離れてしまうと、次に戻ってもまた書けないんです。結局離れていた時間分だけ無駄になってしまう。その間もずっとモヤモヤしているわけですし。だったらショボくてもいいからノートに書き続けて、ウーッて苦しんでみる。僕はペンを動かしながら考えるタイプなんです。何もテーマがなくてもとりあえず書く。3日くらい苦しむと抜けてきます。スパルタ式ですね(笑)

ご自分のラップの技術、クオリティを上げるために努力していることはありますか?

とにかくいろんな曲を書いてみます。まず書いてみて、レコーディングしてみる。作れば作っただけ、良くできたところ、できなかったところが見えてくるので、それを反省して次につなげるようにしています。ここはうまくいった・うまくいかなかった、なんでそうなったのか、の繰り返しです。

サラリーマン時代、仕事を覚えるまでに大変だったことはありますか?
僕たちが関わっている若い技術者のタマゴたちは、入ってきてもすぐ辞めてしまうことが多いんです。そういう人たちにどうやって声をかけたらいいのかな、と思うのです。

僕も会社に入って最初のころは何も分からなかったですよ。会議なんか出てもさっぱりわからなくて眠くて…。1年半くらい経ってようやく周りの状況が見えてくると、面白くなってきましたね。

仕事はできるようになれば楽しいから、ある程度できるようになるまでがんばらないと。自分は何が得意で何が苦手か分かるまでは。とにかく言われた仕事をやってみる。
でもそれだけじゃつまらないでしょ。長い時間そこにいるんだから、「能動的」に動くことが大切。自分は何をやっているときが楽しいか、好きか、得意か分かってきたらだいぶ一人前です。そこからは「能動的」に動けるようになると思います。

得意なことをやっているときは楽しいです。できるから周りからも評価されて嬉しくて「もっとやろう!」と思える。でも、社会では苦手なことをやらなきゃいけないこともあるし、仕事の幅を広げたり、上に上がったりしなくちゃいけないし、好きなことでも壁にぶつかることがありますよね。

「得意分野」をどんどんやれるようにするのがいいと思います。僕は人前で伝えるのが得意で、会社員時代は市場データを分析して営業のひとに情報提供するマーケティングの部署にいたのですが、説明する仕事がいちばん好きでした。だから、各営業所を回って現状を分析して説明し、こうやったらもっとうまくいくんですよとプレゼンする仕事を一番たくさんできるように、周りにもそう伝えていました。調べることはそれが得意な人にお願いして。

自分はコレ!というのが見つかって、そこをもっと突き詰めていける環境を作れるところがすごいですね。

自分の得意分野が分かってくると、その裏の作業も楽しくなってきます。最初はエクセルで分析して企画書作って、と言われたことをやって面白くもありませんでしたが、「自分がこんなふうに説明したいから、こういう数字がいるよね」と能動的に物事を捉えられるようになると面白い!
自分のいちばん好きな仕事をいちばんいいパフォーマンスでやるという目標が見えれば、面倒くさいことも我慢してやろうと思う。というより、「我慢」は必要なくなります。

いまのお仕事のなかで一番好きなのは、何をしているときですか?

曲を作ってライブするときですね。
そのために会社を経営し、経理もやるし打合せもします。例えば経理を自分でやると、最終的には自分のCDの何にいくらお金がかかっているか分かります。じゃあ、PVは削ってもスタジオにはお金をかけようとか、その配分まで自分でやるようになって、そういうことも自分のクリエイティブにも関わってくるんだなあっていうのが分かってきました。
大勢の人と仕事をして、いろんな視点からクオリティ・コントロールが入ってくることが自分にとって負担だったんですが、自分の会社を立ち上げてみて、それが正しいんだと分かった瞬間があるんです。
いまは100%自分のチームでやっています。自分たちの目指す音楽活動ができるなら、面倒くさいことも含めて、頑張って自分たちでクオリティ・コントロールしてやろうと考えるようになりました。面倒だからと人に任せたらどうなるかも分かってきた。だったら自分たちで自分たちの音楽を世に出していきたいと思っています。

ライブの魅力って何ですか?

やはり自分がやっていることを喜んでくれる人がいること。そして、自分自身が成長しているところとそうじゃないところも確認できます。同じ曲でも毎回新しい発見があるし、お客さんによっても反応が違い、それらを感じられることが、すごく楽しいです。

KENさんにとって「はたらく」ってどういうことですか?

どうやってその仕事を好きになるか、好きになる方法を探しているところが大きいかな。孔子の言葉で「好きなことを仕事にすれば、一生働かなくて済む」という格言があります。昔、それにすごく感銘を受けまして、「はたらく」っていう感覚にならないようにするにはどうしたらいいかを一生懸命考えています。どうしたらもっと楽しくやれるかな、と。

「いい会社」ってどんな会社でしょうか。

個が尊重されること。それからある程度、責任を持たせてくれることが大切なのかなと思います。何よりも自分で考えて能動的に動くことが大事だと思うのですが、それってある程度任されないと難しい。「これをやってください」と具体的すぎる内容を振られると、思考停止してしまいます。「単純にこの売り上げを上げてくれ」とか、少しフワッとしたミッションを与えられて、その代わり使っていいお金や権限を渡されるほうが考えるし、面白くやれると思います。僕がいた会社もそうでした。

自分で考えて何かをしていこうという経験は、会社が変わろうが、業界が変わろうが無駄になりません。僕はリクルートで働いていなければ、自分で会社を経営するという選択肢は取っていなかったと思います。10年くらいたって、ああ、こうやって役立つんだと思いました。だから無駄にはならないと思うんです。だから一生懸命、能動的にやっていれば、辛いときもあるかもしれないけれど、絶対どこかで返ってきます。

いま一番大切にしているものは何ですか?

仕事の金額で考えないようにしています。僕の受ける仕事はいろいろで、同じ曲を作る、歌詞をつくるにしてもギャラは異なります。でも、高いから全力でとか、安いから手を抜くというのはないです。どの仕事も受けたら、常に100%の力でやりたい。
どんな仕事もすべて一回コッキリじゃなくて、一見関係なさそうなことも、何かに繋がっているからです。そういうことを細かく知らないアーティストも多いですが、僕は知っちゃってるから(笑)。

KENさんの「真っ向勝負」という曲が好きなんですが、KENさんはどういうふうに真っ向勝負しているのですか?

あれは直接的には「MCバトル」の勝負を歌っているのですが、自分の歌詞や自分自身に対してちゃんと向き合うという意味もあります。「あいつには敵わないよな」と思う相手でもちゃんと逃げずに向かっていく姿勢を大事にしたい。

目の前にあることから逃げないということですね。

そうですね。たぶん経験を重ねることで、続けていくと何かがある、と思えるようになったんだと思います。いまは辛いけど、これは知っている辛さで、抜けた先に何かある。スランプも抜けるんだということが分かってきたから。

そこで辞めちゃう人が転職を繰り返すんですよね。その抜ける体験をさせてあげるために、僕らはどんなことが出来るんだろうって思います。

逃げずに踏ん張れば必ず抜けると、というのは体験しないと信じられないし、踏ん張れないと思うんです。小さくても「抜ける」という成功体験を重ねていく。
みんな、それなりに難しいハードルを越えようとして戸惑っていると思います。だったら周りのサポートは、そのハードルを下げてあげて、ちょっとずつ飛べるようにしてあげるといいんじゃないかな。ちょっとしたトライで「抜けられる」くらいの課題。その塩梅が難しいとは思うんですけど。常に難しい設定になっていると、超えたことがある人はポンと飛べるけど、その経験がない人には難しいですよね。

いまぶち当たってるハードルはありますか

曲に関しては常に、自分の課題がありますね。時流に対して自分のスタイルをうまくマッチさせていくにはどうしたらいいか常に考えています。
ほかには、会社として若いラッパーも何人か抱えているので、そういう人たちのマネジメントやプロデュースというのは新しい挑戦です。まだベストな方法は分からず、手探りですが、こういうことがもっとうまくできるようになりたいですね。

これからの夢、目標は何ですか?

すごく大きなところでは、ラップやヒップホップの面白味がもっと多くの人に伝わるといいなと思います。そのために自分の活動があるし、他のアーティストをサポートする仕事があります。自分はヒップホップが最高に面白いと思っているし、世界的には、ヒップホップは大きなカルチャーですが、日本ではまだまだ小さいし、誤解されている部分もあります。「不良がやるんでしょ」とか「暴力性が強いんじゃないか」とか。もっと面白いんだということをうまく伝えていきたいです。

自分自身は、アーティストとしてもっと大きくなりたいです。もっと大きな規模でライブができるようになりたいし、もっといい曲が作りたい。ヒップホップでありながらもポップミュージックとしても成立するようなものを目指していきたいです。
歌詞を提供したり、新しいことにもチャレンジしていきたい。昨年初めて役者として舞台に立ちました。ビビりましたけどすごく新鮮だったし、他方面で得たことがまた自分の制作に返ってくるとも感じています。
ド新人レベルなんですが、逆にこの年で新しいことに挑戦させてもらったら、自分が持つ音楽キャリアをうまく生かして取り組みたいとも思っています。

KEN THE 390さんよりアイアールへ愛あるメッセージ!

KEN THE 390(けんざさんきゅうまる)
ヒップホップ・アーティスト。自らのラップはもちろん、イベント/レーベル運営まで精力的に行い注目を集める。フリースタイルバトルで実績を重ねた後、2006年1stアルバム「プロローグ」にてデビュー。現在までに、フルアルバム8枚、ミニアルバム4枚をリリース。
016年にはCDデビュー10周年を記念したベストアルバム「KEN THE 390 ALL TIME BEST」がリリース。活発なアーティスト活動を続けながら、現在は話題のMCバトル番組”フリースタイルダンジョン”にも、審査員としてもレギュラー出演。またタワーレコードが主宰する放送局「タワレボ」にて番組パーソナリティを務めるなど、その活動は多岐にわたっている。
オフィシャルWebサイト:http://www.kenthe390.jp/

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