インタビュー

春海 貴信

INTERVIEW

春海 貴信さん

障がい者支援サービスを提供する株式会社UNTOLD代表取締役の春海貴信さんに事業内容やこれからの目標などを伺いました。

春海さんは障がい者支援のサービスを提供されていることですが、これまでもずっと福祉のお仕事をしていたのですか?

そうですね。現在は障がいをお持ちの方をサービスの対象としているのですが、もともとは介護現場で高齢者の方のご支援、福祉的なサポートをさせていただいておりました。介護の現場で8年くらい働いてから障がいをお持ちの方の支援をするようになりましたね。

福祉の道に進もうと思ったきっかけは何かあったんですか?

子供の頃から実家で祖父母と同居しておりまして、私が小学生の時に大好きな祖父が若年性アルツハイマーと診断されました。最初は直前まで話していたことを忘れてしまうことや、当時すでに退職をしていたのにも関わらず仕事に行こうとすることから始まり、家にいるのに「自分が住んでいる家ではない」と感じ、時間問わず徘徊をするようになりました。まだ60代ということもあり、体力もあるので外に出ていってしまうとかなり遠いところまで行ってしまうんです。ある日、祖父が大阪の住吉区にある家を出て行方不明になってしまった事があり、警察にもお願いして捜索をしたのですが、2日後に大阪の梅田で倒れているところを発見されたこともありました。そうしてどんどん認知症状がみられていく中で、家族も疲弊していくように感じました。当時はご近所の方々の目を気にして介護サービスを受けることへの抵抗感があるような時代でもありましたし、家族としてもどうしてよいかわからない状態で、まだ子供ながらに仲が良かった家族が少しずつ崩れていくような気持ちにもなりました。その後程なくして、家族が限界を感じたため、祖父は高齢者施設に入所することとなりました。そこで面会に行った際に初めて介護士という仕事を知りました。その方々が献身的に祖父の介護をして下さっていましたし、その施設で祖父と祖母が以前よりも穏やかに会話している場面をみて、距離が空くことで関係が良好になることもあると感じました。それは介護士の方が家族と祖父の間に居てくれたからこそであり、自分も人がその人らしく生きていくことをサポートできるような人になりたいと思い、将来この仕事に就こうと決めました。

介護士を目指してやってきて、その後障がいを持っている方々を対象とした福祉に転向したのはなぜだったんですか?

実際介護福祉士として8年間勤めてきてとても楽しかったですし、仕事としてやりがいがありました。何より8年間介護の仕事が嫌だと思ったことは一度もありませんでした。以前勤めていた社会福祉法人は割と大きな組織でしたし、大切なこともたくさん学ばせていただきました。ただ、当時勤めていた職場が障がい者の方を支援する事業と同じ建物内にあって、実際に障がいをお持ちの方々とも関わる機会があったということが大きな理由だったと思います。やはり自分自身もっと視野を広げるには、介護だけではなく、障がいをお持ちの方々や児童福祉も知るべきだと思い、別の道に進みました。

春海 貴信

株式会社UNTOLDさんの支援の内容を教えてください。

僕たちは現在3つのサービスを展開しております。ひとつは6〜18歳が対象の『放課後デイサービス』です。この放課後デイサービスがいま日本全国にかなりの数存在しているんですけど、いわゆる発達障がいをお持ちのお子様たちが放課後に使える学童保育のようなサービスです。うちでは梅田で事業をしており、内容としては海外の講師の方とオンラインで繋いでお子様たちに英会話レッスンを受けていただくというサービスも行える児童通所支援事業となっています。今の小学生では『発達障がい』と診断される児童は学年で複数人はおられ、発達障がいの認識も以前より深まっています。障がいという言葉だけで捉えてしまうとすごく重度の障がいを想定される方が非常に多いのですが、中には学業の遅れや人とのコミュニケーションに問題が生じるような軽度の児童もおられます。そういった児童は親御様のお子様に対する関わり方や、お子様自身の障がいに対する向き合い方、周囲の環境次第では社会に溶け込んでいくことも可能ですし、類まれな才能を発揮される方も多いです。スティーブジョブスや、トム・クルーズなど著名な方でも発達障がいと診断されたことを公表されている方がおられるので、自分の子供には可能性があり、そういった才能を伸ばしていける環境を用意してあげたいと考える親御様が増えているように感じます。

2つ目のサービスは、18〜65歳の方を対象とした就労継続支援A型という、ご利用される方にお仕事の機会を提供するサービスを展開しています。障がいの状況においては企業様で勤めることが難しい方、一般での雇用が困難な方がいらっしゃるので、そのような方々に就労の機会を提供しています。利用契約を結んでいただいた方には、弊社の業務を実施し、その対価となる給料をお支払いするという、働きながら支援を受けられる福祉サービスです。実際やっている仕事としては地元企業から製品の組立や梱包作業などを請け負わせていただいたり、高齢者施設内の清掃業務に入らせていただいたり、企業様のデータ入力のお仕事をさせていただいたりと様々な仕事を受けております。

利用者さんはどのような方がいらっしゃるんですか?

基本的には障がい者手帳をお持ちの方であったり、医師の診断のもとで障がいが認定された方、もしくは難病疾患をお持ちの方にご利用いただいています。弊社の事業所で多いのは精神障がいをお持ちの方になります。

そうなんですね。3つめのサービスはどのようなサービスですか?

3つめのサービスは福祉事業とは別のサービスになるのですが、企業様の障がい者雇用をサポートさせていただくサービスを提供しております。国で定められた障がい者の法定雇用率というのがありまして、企業様の全従業員に対して2.3%は障がいをお持ちの方を雇用しなければならないというルールなのですが、法定雇用率を達成している企業は現状、全体の50%を下回っているんです。でも先ほどご紹介したA型のサービスをご利用いただいている人の中には、一般企業に勤めたいと思っている方達がたくさんいらっしゃいますし、企業様も国の方針に従って障がい者雇用を進めなければと考えていらっしゃるので、双方の意思は合致しているはずなんです。それでも障がい者雇用が進まない背景として企業様側でよく課題として上げられるのが、まずどういった業務をしていただけるのかがわからない、つまり障がい特性が理解できていないというところ、次に安定して雇用ができるのか未知数であるというところ、あとは社員からの反感を買ってしまうのではないかとご心配される企業様もとても多いです。なので我々はこれらの問題を解決できるように、企業様のオフィスとは別の場所でオフィスをご用意し、企業の業務に従事できる環境を整備し、障がい者雇用を進めていきませんかというご提案をしています。実際に弊社のサービスをご利用された企業様からは、お勤めされる皆さんの業務遂行能力の高さや、定着率の高さから、安心して進めていただけております。企業様が障がいをお持ちの方々の能力について誤解されていることで、障がい者雇用のハードルが高くなってしまっていると思います。企業様側に障がいをお持ちの方であっても能力の高い方がおられ、企業の力になる、それを知っていただくという意味でも、企業様の障がい者雇用の間口を広げていける一助を担えればと考えています。

利用者の人と接する上で大切にしていることは何かありますか?

利用者が何を目指していくべきなのかをチーム内で共有してサポートしていくことを大事にしています。福祉の職に就く方は元々優しい方が多いのか、人に対して自分が「してあげたい」という想いが強いと思うんです。でもその「してあげる」というのは、その場限りのものなのか、対象者の今後の人生を考えて取っての行動なのかを従業員に考えさせるようにしています。例えばA型でお仕事されている方に、本人の今の能力でしかできない仕事ばかりを続けていただくのか、今は難しくとも難易度の高い仕事にチャレンジしてもらうのかでその人のこれからは大きく変わると思います。おそらくその人は同じ仕事ばかりを続けていればそれ以上のことはできなくなってしまいます。反対に難しい仕事をチャレンジした方は遅くとも一つずつステップを踏まれ、ご自身のできる幅を広げられます。その人の今を見て、今にしか目を向けない支援は「その場限りの支援」だと思います。その人が今後一般企業に就職することを目標としているのか、またはどれだけ時間が掛かっても一つの商品として完璧な状態まで自分で完成させることを目標とするのかを考え、どのようにすればその目標を達成できるのか、アイデアを出し、伴走することが我々の仕事だと考えています。できることを奪う仕事ではなく、その人たちがどのようにすればできるのかを一緒に考えていくことを意識しています。僕らもそうですけど、人生の目標を立てることはすごく難しいことだと思うんです。自分達の5年後10年後を考えている人の方が少ないように感じます。彼らの将来がいかに明るく、面白いものかを見せたいと考えています。

なるほど。普段の生活の中でも「その場限りの支援」って結構やってしまいがちですね。

そうですね、福祉の現場に限った話ではないと思います。東北大震災で被災地の遺体安置所を回られ、ご冥福を祈り続けられた僧侶の方のお話を聞かせていただいたことがあるのですが、誰もが経験したことのない、前例のないあの状況下でたくさんのボランティアの方々が集まられました。「少しでも被災地の人々を手助けしたい」という想いから集まられたボランティア活動は被災地の方々の大きな助けになっています。しかし、被災者の方々の中には支援を受けることに対して「ありがとう」という言葉を言い続ける状況が苦しいという価値観も生まれていたそうなんです。「ありがとう」と一方に言い続ける関係ではなく、人と人が相互に感謝を伝えあえる関係こそが人に立ち上がれる力を与えるということを学ばせていただきました。その人がいかに社会に認められ、必要とされ、人に「ありがとう。」と言われるように生きていけるかを共に考え、歩むこと大切だと思います。

春海 貴信

お仕事をしていて課題に感じていることは何かありますか?

僕たちの事業は今後色々な方と出会い、色々な価値観を取り入れていき、今あるものに常に疑問を持つということでしかこれから未来を築けないと感じています。その中でまず自分たちの事業をより多くの方に知っていただけるよう動いていくことが大切です。僕らのサービスにどのような意味があって、普段どのような想いで仕事をしているのかをもっと発信していかなければならないと思っています。その上でこのような貴重なご機会をいただけたことに感謝しております。

今後の目標や、目指していること教えてください。

いま提供している3つの事業を基盤として事業展開していきたいと思っています。僕が目標としているところがあって、尊敬する会社様と一緒になってしまうんですけど、『すべての人が尊敬される社会』を作りたいと思っています。どんな方でも人に求められ、喜びを得られる機会があることが当たり前の世の中であってほしいと思いますし、その為に僕たちの事業をより多くの方に知っていただき、高齢者も、障がい者も、その方々をサポートする人も皆リスペクトの対象になれるよう発信していきたいと思います。それを実践するにはまず僕らのサービスを広めていく必要がありますし、中のサービスもより良いものに見直していく必要性もあると思います。僕は代表者として、みんなが活躍できる舞台を作っていきたいです。

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